Shinya

つむちゃんのおにいさん

同じアパートに住んでいる女の子は会うたび元気に挨拶をしてくれる。明るくて見ているだけで元気になれる。僕は「つむ」という名前の犬を飼っている。つむの散歩に会ったときは「つむちゃん!」とかけてきてくれて、犬が苦手みたいだけどつむのことは怖がらないでくれている。

そんな関係の中でいつも犬を連れて歩いている僕たちのことをなんて呼んでいいのかわからなかったのだろう、いつもタッタッタッとかけてきてくれてちょっと話すだけだったのが、今日は「つむちゃんのおにいさん」と呼んでくれた。たったそれだけなのになぜかすごく嬉しかった。彼女の世界の中に僕らが存在しはじめたような気がしたからかもしれない。名前を呼ぶというのはきっと魔法で、呼ぶか呼ばないかだけの違いなのに関係性が深まる感じがする。

街に出ると名前を知らない人がたくさんいる。ふだん意識しないけど、誰かが誰かを認識することは結構すごいことだ。名前を知ることだけでじゅうぶんなレベルアップだけど、名前を呼ぶところまでいくとかなりすごい。その子とははじめて顔を合わせてから一年くらい経つと思うけど、顔を知るところから名前を呼ぶところまで時間がかかった分、不思議なうれしさを感じることができた。