おばけちゃん、ようこそ。
朝、アパートメントの共用ゴミ置き場で生き物を見つけた。
それは剪定されずに枝がいろいろな方向に伸びきって、しなだれて、おばけのような見た目をした小さなもみの木だった。プラスチック製の大きなゴミ収納庫と並んで、ひとつだけポツンといたその生き物は、とても寂しげで、誰かの目に留まることを待っているようだった。
うちに連れて帰ろうか。でももしかしたらもう枯れているのかも。もしくは病気?虫がうじゃうじゃ出てきたらどうしよう…。
そのまま部屋に戻ってもどうにも気になって、バルコニーから再び木を見下ろしてみる。遠目から見ると、よけいにおばけみたい。このままではごみ収集の人に持って行かれて、燃やされてしまうだろうか。
こういう時は植物に詳しい母に聞いてみようと、ビデオ電話をしながらまた木のもとに戻る。「触ってみて葉がぽろぽろ落ちなければ大丈夫よ」と言われ、触れてみる。
あ、まだ生きてる。葉の艶はあまりないけれど枝付きはしっかりしていて、中に水が通っているのを感じる。よく見てみると、枝のところどころにキラキラと光る細いテープが絡まっていた。きっとクリスマスにはこの木も飾り付けられて、誰かを楽しませていたのかも。あぁ、ごめんね。その人にどんな事情があったのかはわからないけれど、思わず木に対して謝ってしまう。触っているうちにどんどん愛着が湧いてきて、こんなにかわいい木が捨てられているという事実に、母も私もおもしろくなってきて大笑い。ほんとうは最初に見た時から、私はこの木を自分の部屋に連れて帰ることを決めていたのだと思う。
鉢に土がしっかりと入っているので、けっこうな重さがある。部屋にいる彼を呼びに行けばいいのだけれど、ここでがんばらなくていつがんばる!?と謎の気合いが入る。コートが汚れるかもなどと気にせずに、思い切り抱きかかえて持ち上げると、思ったほど大変でもない。「よいしょ、よいしょ」とひとりごとを言いながらエレベーターに乗せ、部屋まで運ぶ。もしあのシーンを誰かに見られていたら、かなりの不審者だったと思う。ゴミ置き場にある木を、他の国の言葉で電話しながらいろいろな角度から見て、写真を撮り、大笑いして、しまいにはぶつぶつ言いながらそれを持ち運んで…。
部屋に戻ると彼は「やっぱり持ってきた!」と笑いながら迎えてくれた。「うん、やっぱりこれ生きてるよ」「かわいいね」などと言いながら窓辺に持っていく。日当たりのいいところに置いても、それはやっぱりおばけみたいだった。
そんなこんなで、ひょんなことからもみの木との生活が始まった。おばけちゃん、ようこそ。